「タップくん」のプラスチックモデル新登場

超硬ボールエンドミルAE-BD-H・AE-LNBD-Hによる金型製造

オーエスジー株式会社 佐藤かおり

プラスチックモデルキット

プラスチックモデルは、日本の皆様には広く知れ渡っている、ディスプレイを目的としたスケールモデルです。一般的に箱から取り出してすぐに組み立てることができるキットになっています。日本製のプラスチックモデルは、高精度・高品質のレプリカとして愛好家たちの間で特に高い人気を誇ります。

プラスチック製品の製造工程

プラスチック製品の大量生産には、射出成形がよく用いられます。射出成形には、軽量で寸法安定性に優れていることから硬質の固形プラスチック材であるポリスチレン(PS)が多く使用されます。世界で最も生産量の多い熱可塑性プラスチックの一つであるポリプロピレン(PP)も、その固有の特性とさまざまな加工技術への適応性からよく採用されています。ポリスチレンもポリプロピレンも、液状化が可能なため射出成形しやすく、その後のリサイクルも容易であることから理想的な素材とされています。

アンジョウハーツプロジェクト

安城市は、愛知県の中央部に位置し豊田市に隣接しています。同市は、日本有数の製造業地域で自動車製造を広く支える裾野産業が盛んです。この地域には、高い技術を誇る中小の製造業が数多く集積していますが、こうした企業は国外の製造業のトレンドや大手自動車メーカの経営状況などの要因に影響を受けやすい立場にあります。そこで、自動車産業だけに依存しない産業育成の必要性を感じていた安城商工会議所は、2010年に地域ブランド「アンジョウハーツプロジェクト」を立ち上げました。10社以上の企業で構成されるアンジョウハーツプロジェクトは、地域のメーカが持つ力を結集して、地球環境に配慮しながら夢と愛に満ちあふれた新しい工業製品を作り出すことを目指しています。

ユメプラスチックとオリジナルのプラスチックモデルキット

アンジョウハーツプロジェクトの代表的な取り組みのひとつに、企業のノベルティグッズとしてペットボトルキャップをオリジナルのプラスチックモデルキットに再生する取り組みがあります。このプラスチックモデルの素材には、使用済みペットボトルキャップ(ポリプロピレン製)が使用されます。

プラスチックモデルの素材には、使用済みペットボトルキャップ(ポリプロピレン製)が使われています。安城市では全国から月間600万個以上のペットボトルキャップが回収されていることから、同市は日本有数の地球環境にやさしい都市のひとつに数えられています。

安城市では月間600万個以上のペットボトルキャップが回収されていることから、日本有数の地球環境にやさしい都市のひとつに数えられています。回収されたキャップは色別に分類したのち、フジイ化工株式会社のリサイクル施設で粉砕され、リサイクルされます。

使用済みペットボトルキャップを粉砕機に投入するフジイ化工株式会社のスタッフ。

このリサイクル素材は細かいペレット状に細断され、新しいタイプのエコ素材として生まれ変わるのです。アンジョウハーツプロジェクトでは、このエコ素材を「ユメプラスチック」と名付け、日本政府から「地域産業資源」として認定されています。このユメプラスチックを溶かして金型に流し込み、オリジナルのプラスチックモデルとして成形します。

再生されたペレットは色別に分類され、用途に応じて使用されます。

アンジョウハーツプロジェクトは、リサイクル原材料、金型設計・製造、そして射出成形のスペシャリストである専門の企業によって構成されています。原材料を加工するのは、再生プラスチック原材料を取り扱う専門企業であるフジイ化工株式会社です。

(左)フジイ化工株式会社 代表取締役社長 藤井清光氏
(右)代表取締役会長(CEO)藤井達雄氏。愛知県安城市にて。

プラスチックモデルの金型設計・製造は、自動車部品向けの金型製造を得意とする、有限会社髙木金型製作に一任されます。

(左から)石川雄一氏、越取由克氏、早川剛弘氏、髙木雅英氏(代表取締役社長)、祢宜田伸夫氏、野呂瀬健太郎氏、髙木英樹氏(製造エンジニア)(愛知県安城市に所在する有限会社髙木金型製作の生産工場にて)

さらに、試作品とプラスチック成形は、熱可塑性樹脂の射出成形で40年以上にわたる実績をもち、自動車部品や電気器具などさまざまな製品を製造している、有限会社壱武工業所が担当しています。

有限会社壱武工業所の代表取締役社長、竹口達也氏(愛知県西尾市に所在する同社の製造工場にて)。有限会社壱武工業所は、熱可塑性樹脂の射出成形の分野で40年以上にわたる実績をもち、自動車部品や電気器具などさまざまな製品を製造しています。

オーエスジー公式キャラクター「タップくん」のプラスチックモデル化

オーエスジーが本社を置く愛知県豊川市は、安城市から車で1時間ほどの距離にあります。2019年初め、オーエスジーはアンジョウハーツプロジェクトを知り、ノベルティとして自社の人気キャラクター「タップくん」のプラスチックモデルを製作することを決めました。

「タップくん」は、オーエスジーの公式キャラクターです。

「タップくん」は、オーエスジーの公式キャラクターです。1938年創業のオーエスジーが最初に開発したハンドタップをイメージした架空のキャラクターとして誕生しました。ハンドタップをイメージした親しみやすい「タップくん」というイメージキャラクターは、オーエスジーのブランドアンバサダーとして企業の広報宣伝、製造業界、そして地域社会において活躍しています。ここ数年、「タップくん」は日本の製造業をはじめ海外でも広く認知され、親しまれています。

同じ地域の製造業としてアンジョウハーツプロジェクトの挑戦に大いに感銘を受けたオーエスジーは、プラスチックモデルの金型を製作するために必要な材料と切削工具を提供し、この活動を支援したいと考えました。

「タップくんラモ」プラスチックモデル製造工程

オーエスジーは、アンジョウハーツプロジェクトにプラスチックモデルキット5,000個を発注し、「タップくんラモ」と名付けました。カスタムメイドのプラスチックモデルキットを作るには、キャラクターの3Dモデルの制作、金型設計・製作、射出成形といった工程が必要となります。

有限会社髙木金型製作による「タップくんラモ」の3Dモデル。

3Dモデルの制作、金型設計・製造は、有限会社髙木金型製作が担当しています。プラスチックモデルの金型にはSTAVAXステンレス金型鋼を選定し、金型加工工具はオーエスジーの高硬度鋼用の新しい超硬ボールエンドミルシリーズを使用しました。

高硬度鋼用超硬ボールエンドミルAE-BD-H・AE-LNBD-H

AE-BD-HとAE-LNBD-Hは、より高速かつ高精度な金型加工を実現するオーエスジーの新しい高硬度鋼用超硬ボールエンドミルです。

オーエスジーのAE-BD-Hは、高精度仕上げ加工を実現する2枚刃超硬ボールエンドミルです。可変ネガスパイラルギャッシュを採用し、チッピングを抑制します。また、優れたボールR精度により180°間安定したR精度を確保します。AE-LNBD-Hは、高精度仕上げ加工を実現する2枚刃超硬ロングネックボールエンドミルです。AE-BD-Hと同様に、中心部を厚くすることでボール先端のつぶれやチッピングを抑制します。また、外周部強バックテーパのティアドロップ形状により点での切削となり、びびりが抑制され欠け防止と加工面精度の向上を実現します。どちらの工具にも高硬度鋼加工に最適化された超耐熱性・高じん性を発揮するオーエスジー独自のDUROREY(デューロレイ)コーティングが施されています。

金型加工アプリケーションの詳細

「タップくんラモ」顔部分の凸面仕上げ加工(等高線加工)

使用工具: AE-LNBD-H (R1.5 x 25 x 6)

材料: STAVAX (53 HRC)

切削条件:n 10,000 rpm(Vc=94 m/min)、Vf 800 mm/min(fz 0.04 mm/t)、ap 0.1 mm ae 0.1 mm

有限会社髙木金型製作では、通常ペットボトルキャップを材料としたプラスチックモデルの金型材料に炭素鋼(S50C)を使用していますが、「タップくんラモ」の金型製作にはSTAVAXの使用を依頼しました。

STAVAXを材料とする「タップくんラモ」の金型加工の準備をする、有限会社髙木金型製作の機械オペレータ、石川雄一氏。

複数の狭い溝加工を必要とする「タップくんラモ」頭部の加工には不安がありましたが、初めて使用するAE-BD-HとAE-LNBD-Hが期待以上の性能を発揮し彼らを驚かせました。

有限会社髙木金型製作が製作したSTAVAXを素材とする「タップくんラモ」の金型は有限会社壱武工業所に送られ、そこで新しいエコ素材「ユメプラスチック」を用いて射出成形が行われます。

「通常と異なる材料、工具で不安がある一方、ワクワク感もありました。これらの工具はまさに高硬度鋼加工に最適なエンドミルということが使用してみて良く分かりました。加工面品位も最高でした」と、有限会社髙木金型製作の製造エンジニア、髙木英樹氏は語ります。

「タップくんラモ」頭部の金型。

加えて、「自身の会社にとって、とても有益なプロジェクトでしたし、オーエスジーとコラボレーションできたことを喜ばしく思っています」とも語っています。

「タップくんラモ」胴体部分の金型。

オーエスジーは、特別なイベントなどでお客様にお渡しするノベルティを毎年数多く制作していますが、今回のアンジョウハーツプロジェクトとの活動は100%リサイクル素材で作られていることもあり、特に意義深いものとなりました。

組み立て後の「タップくんラモ」は高さ約40 mmのサイズです。

「プラスチックモデルも、モノづくり。組み立てる作業を家族・友人で共有できコミュニケーションツールにもなります。今回製作した「タップくんラモ」を通じて、環境に対する意識が高まり、次世代のためにより良い未来を創造していける手掛かりになれば」と、このプロジェクトを担当したオーエスジーのマーケティング責任者、中村大樹は語ります。

アンジョウハーツプロジェクトとオーエスジーの最新工具、高硬度鋼用超硬ボールエンドミルシリーズの詳細については、各リンクをクリックしてください。


プロジェクトパートナー

フジイ化工株式会社

所在地:愛知県安城市

創業年:1979年

主要製品・サービス:プラスチック材のリサイクル

代表者:代表取締役会長 藤井達雄、代表取締役社長 藤井清光

ウェブサイト:http://www.fujii-kakou.co.jp/


有限会社髙木金型製作

所在地:愛知県安城市

創業年:1991年

主要製品・サービス:金型設計・製造

代表者:製造エンジニア 髙木英樹

ウェブサイト:http://www.takaki-kanagata.jp/


有限会社壱武工業所

所在地:愛知県西尾市

創業年:1976年

主要製品・サービス:熱可塑性樹脂の射出成形

代表者:代表取締役社長 竹口達也

ウェブサイト:https://ichitake.co.jp


キャップアート

(左から)オーエスジーの「A Brand」ロゴ、および公式キャラクター「タップくん」のキャップアート。アンジョウハーツプロジェクトでは、使用済みペットボトルキャップを単にリサイクルするのではなく、環境問題に関するコミュニケーションを促進するキャップアートにも取り組んでいます。

オーエスジーの公式キャラクター「タップくん」のキャップアートを完成させる同社のエンジニア、細野将希。細野は有限会社髙木金型製作との「タップくんラモ」金型製作において技術面でサポートを行いました。