「クリーン」な部品加工のソリューション

マルチグルーブによる溝なしタップ加工

BASS GmbH & Co. KGのThomas Deschle氏、OSG GmbHのMagnus Hoyer

一般的に、溝なしタップによる加工は、被削材の塑性変形という特性を利用してねじ山を成形します。切りくずが生じないため、溝なしタップによる加工はクリーンで卓越した加工方法とされています。切削タップと比べて、長い工具寿命が得られ、ねじ長の深い加工でも信頼性の高い加工を行うことができます。しかし、MQL(ミスト加工)では加工の際に生じるスラッジが加工面の悪化やタップの異常摩耗などの悪影響を及ぼす恐れがあります。湿式加工では、スラッジは切削油剤により排出されますが、MQL ではこのようなケースが現れやすくなります。スラッジが残ってしまうと、ねじ加工後、部品の洗浄が必要になるだけではなく、スラッジによりタップの摩耗が早まり、工具寿命が短くなってしまう可能性もあります。

BASS社の製造工場は、ドイツ、ニーダーシュテッテンにあります。施設の面積は、およそ6,500m2です。

スラッジとは、ねじ立てを行った際、ねじ山のフランクから生じた材料の小さな粒子のことです。これらが溝なしタップの油溝に溜まり、次第にタップと部品の品質を悪化させていきます。こうした現象を抑えるため、BASS社は多岐にわたる一連の試験を実施しました。数年にわたる研究開発の結果、図1に示す国際特許を取得したマルチグルーブを開発しました。この新しい特殊な油溝の形状は、溝なしタップでのMQL加工においても加工品位の悪化という問題を解消しています。

図1 :国際特許を取得したBASS社のマルチグルーブの油溝形状により、工具の長寿命化とクリーンな部品を実現します。

マルチグルーブの特殊な形状が、タップのフランクから生じたスラッジを集めて排出します。同時にMQL及び切削油剤であってもクーラントの効果を高めます。加工品位を悪化させるスラッジを油溝ならびにタップのフランク面や加工されためねじから除去し、タップや加工部品に対して「クリーン」な加工が可能になります。

MQLで止り穴を加工する場合、穴の中から空気を排出させることが重要です。この点では、従来の溝なしタップでは十分な効果を期待できません。従来の溝なしタップの油溝は直線形状であるため、タップがねじ込まれねじ山を成形している間は、止り穴の中にある空気を排出できません。そして穴の中の空気は穴底へ圧縮され、まさに「空気の壁」のようになり、それに対してミストを押し込むことになります。この「反対方向に作用する圧力」により、ミストは十分な潤滑効果を発揮することが困難になります。この問題を解決するのがマルチグルーブです。

ルチグルーブを採用することで、図2に示すように穴の中の空気をより早く排出でき、潤滑効果を高めることが可能となります。この結果、工具寿命が30%改善され、タップ加工の信頼性が飛躍的に向上します。

図2マルチグルーブの機能原理:図2の上部に示す従来の油溝の形状では、穴の中の空気(青色で表示)が穴底に圧縮されます。図2の下部に示すマルチグルーブは、複数の溝が存在することでより多くの空気が排出できる一方で、ミスト(黄色で表示)が穴の壁面の潤滑性を十分に保つことが可能となっています。マルチグルーブの効果により、穴の外へ排出する空気と共に、加工中に生じたスラッジを素早く排出できます。

理論的に期待できる効果としては、止り穴が深ければ深いほど(呼び径の2倍以上)、より多くの空気を排出させる必要があるため、マルチグルーブはより高い効果を発揮できると言えます。

BASS社は、国際特許取得済みマルチグルーブの形状を開発し、溝なしタップによる加工でタッピングの間に生じるスラッジによる加工品位の悪化への対応を可能としています。マルチグルーブにより、切削油剤の効果が高められ、油溝、ならびにタップのねじ部や加工されためねじからスラッジが除去されます。

マルチグルーブの有効性に影響をもたらすもう一つの要因として、ミストが供給される際のクーラント圧力があります。通常の気圧は1 バールです。止り穴の中で圧縮が起きることで、ミストは1 バールを上回る圧力で「空気の壁」を押さなくてはなりませんが、ミストの圧力が若干高いだけでは、穴の壁面の潤滑性を十分に保つことができません。そのため工具寿命が著しく短くなり、加工品位は悪化します。このような加工環境でマルチグルーブは大きな効果を発揮します。

マルチグルーブの優れた効果をご覧ください。

BASS社について

BASS GmbH & Co. KG社はドイツ、ニーダーシュテッテンを拠点に、ダイナミックに事業を展開している中堅のファミリー企業です。中世の街並みで名高い観光地、ローテンブルク・オプ・デア・タウバーにほど近い場所に位置しています。工具の職人であるKurt Bass氏が1947年に創業して以来、BASS社はパワフルなねじ切り工具の開発、生産、販売に主眼を置き事業を展開しています。2019年、オーエスジーは世界的に事業展開を行っている企業を顧客とするBASS社を欧州市場を強化するためにグループ会社に迎えました。

ドイツ、ニーダーシュテッテンにあるBASS GmbH & Co. KG社の本社。

BASS社は、高品質のタップ、特に溝なしタップや特殊工具を製作することで世界的によく知られています。製品、サービス、納期において顧客の期待を上回る成果をお届けできるよう、BASS社に在籍する150名の従業員は高い意識を持って日々の業務に取り組んでいます。革新性を原動力に、BASS社は、自動車、機械工学、医療からナットの機械加工や風力発電タービンのメーカに至るまで、あらゆる分野の顧客に貢献します。

マルチグルーブBASS GmbH & Co. KG社の詳細情報をご覧ください。

オーエスジーの3枚刃油穴付き超硬ドリルADO-TRS「トリプルレボリューションドリル」と組み合わせることで、完璧なねじ加工を実現します。

ADO-TRSは、オーエスジーが誇る最新の超硬ドリルで、幅広い被削材に対して高能率な穴加工を実現します。当社ではADO-TRSとBASS社のマルチグルーブ溝なしタップを組み合わせて使用することをお勧めしています。ADO-TRSの3枚刃仕様は、びびり振動が生じやすい2枚刃ドリルよりもバランスが良く、卓越した真円度と穴位置精度を実現します。高送りの切削条件においても優れた性能を示すADO-TRSは、ワークとの接触時間を最小限に抑えることができ、加工硬化を低減します。

ADO-TRSは直径3 mmから20 mmまでのサイズバリエーションで加工深さに合わせて3Dおよび5D用を取り揃えており、炭素鋼、合金鋼、軟鋼、鋳鉄、高硬度鋼の用途に適しています。

ADO-TRSの3枚刃超硬ドリルシリーズ、ならびに世界に広がるオーエスジーのネットワークをご覧ください。