AE-VTSS

超硬防振型エンドミル自動旋盤対応型

新美 浩太郎 オーエスジー株式会社 エンドミル開発エンジニア

モノづくりの世界では常にコスト削減の取組みが行われています。近年では、切削工具に求められる性能として従来の「高能率」、「長寿命」に加え、「省人化」や「無人化」に繋がる性能も求められています。当社では、「省人化」の最たる例の1つである自動旋盤に着目し、自動旋盤対応型のエンドミルを開発しました。

自動旋盤は高精度な多軸CNC加工機で、複雑な加工を1回の段取りで行うことができ、人がほとんど介在しない無人加工に最適な機械の一つといえます。特に、同一形状の部品を効率よくかつ安定的に生産することを得意としています。さらに従来の加工機よりもサイクルタイムが短いことも特長のひとつです。

自動旋盤で使用されるエンドミルは、主にキー溝加工やDカット(正面切削)で使用されています。当社では、2022年春に自動旋盤における「省人化」や「無人化」に貢献する最適仕様の超硬エンドミル「AE-VTSS」を発売しました。

AE-VTSSの特長

1. 高い切りくず処理性

部品1つ当たりの切削量が少なくても、加工ワーク数が増えればそれだけ切りくずトラブルが発生しやすくなります。図1、2にSUS304における突込み加工を行った際の切りくず形状を示します。図1は、従来の刃形状(ストレート刃)エンドミルでSUS304を突込み加工した際に発生した、長く歪んだ切りくずです。このように変形した切りくずは、加工を繰り返すうちに主軸への巻き付きや噛み込みの原因となります。切りくずが主軸に巻き付いてしまうと、機械を停止して取り除く必要があり、生産性の低下につながります。

図1. 従来品を使用したSUS304における突込み加工時の切りくず形状

図2. AE-VTSSを使用したSUS304における突込み加工時の切りくず形状

当社のAE-VTSSは、独自の底刃フック形状(PAT.P. in Japan)を採用し、安定した切りくず形状と切りくず排出性の向上を実現しました。従来のエンドミルは底刃形状が直線(以下、ストレート刃)ですが、本製品は図3に示す通り外周から中心にかけてフック形状となるよう設計されています。

図 3. 3枚刃仕様と底刃フック形状(PAT.P. in Japan)

製品開発では切削シミュレーションを活用し、底刃の最適仕様を決定しました。図1は従来のストレート刃エンドミルによる切りくず形状を、図2は底刃フック形状を採用したAE-VTSSにおける切りくず形状を示しています。両者を比較すると、AE-VTSSがよりカールの強い切りくずを生成していることが分かります。螺旋状でまっすぐな切りくずが安定して生成されることで、工具への切りくず巻き付きを抑制する事が可能です。

次に、実際にストレート刃の従来品とフック形状のAE-VTSSで連続した突込み加工を行い、切りくずの巻き付き具合を比較しました。図4は37穴加工時の工具写真です。従来のストレート刃は切りくずの巻き付きが発生しましたが、フック形状のAE-VTSSは切りくずトラブルがなく連続した加工が可能でした。切りくずの巻き付き、噛み込みを抑制することで、安定した連続加工が可能となります。

図4. SUS304における37穴加工後の工具の状態。従来のストレート刃エンドミルは切りくずの巻き付きが発生していますが、底刃フック形状のAE-VTSSは連続した加工が可能です。

2. 多機能

自動旋盤に取り付け可能な工具の本数は限られています。AE-VTSSは溝・側面に加え突込み加工も得意とする多機能3枚刃エンドミルです。本製品は、自動旋盤の刃物台を圧迫せず、加工工程の集約や段取り時間、工具交換時間の短縮に寄与し、自動旋盤の性能を最大限に引き出します。

3. びびりを抑制する不等リード・不等分割形状

 自動旋盤では、一般的にワークを片持ちで支持して加工します。マシニングセンタでのクランプ状態と比較すると、自動旋盤での加工は剛性が低くびびり振動が起こりやすい環境であると言えます。図5に、等リード・等分割刃の従来2枚刃エンドミルとAE-VTSSの加工を比較したデータを示します。従来品では2,000パス加工時点でびびり・バリが発生しましたが、AE-VTSSでは条件を上げた状態で3,000パス加工してもバリがなく良好な加工面を実現しました。これはAE-VTSSの不等リード・不等分割刃による防振効果であり、より高能率な加工が可能となります。

図 5. 従来2枚刃エンドミルと3枚刃AE-VTSSの加工データと加工ワークイメージ

4. 自動旋盤に適した形状

自動旋盤内のスペースは限られており、刃物台とワークの位置関係からマシニングセンタ用工具の全長次第では、長過ぎて使用できない場合があります。

AE-VTSSの開発にあたり、国内の各自動旋盤メーカに対しエンドミルの最適な全長設定に関するアンケートを実施しました。その結果、全サイズ全長50mm以下に設定しています。

5. 長寿命化を実現するDUARISEコーティング

AE-VTSSは、潤滑性、耐摩耗性、高温耐酸化性に優れたDUARISEコーティングを採用しています。

図 6. DUARISEコーティング

図 7. 左から従来のコーティング、DUARISE コーティング

図6で示すように、DUARISEコーティングは複合多層構造・付着強化層で構成されています。潤滑性・耐摩耗性・高温耐酸化性に優れ、複合多層構造によりサーマルクラックを抑制します。コーティング表面には平滑化処理を施し、ドロップレットと呼ばれるコーティング表面の凸凹を取り除くことで加工面品位を向上させました(図7)。

図 8.耐摩耗性比較

図8に、SUS304における70m加工後の外周刃の摩耗幅と刃先状態を示します。従来品、他社品ともに大きく摩耗しているのに対し、AE-VTSS は摩耗量が少なく高い耐久性を示しています。

AE-VTSSは、生産コスト削減のための長時間無人加工において、効率的で正確かつ安定した加工を実現するために、自動旋盤に最適化されたオーエスジーの最新工具です。本製品は、ステンレス鋼、鋳鉄、炭素鋼、合金鋼、焼入れ鋼 (~40HRC)をはじめとする幅広い被削材に対応するように設計されています。外径3mmから12mmの計7アイテムを用意しており、今後もニーズに合わせて引き続きラインナップ拡充を図って参ります。今後の展開にご期待ください。

AE-VTSSの詳細