画期的な工具 1パス スレッドミル 高品位なめねじ加工を実現
依田 智紀、オーエスジー アプリケーションエンジニア(タップ開発部門)
近年、絶え間なく変化する世界の製造業のニーズに対応すべく、被削材は著しい進化を遂げています。材料はより軽量化し、力や熱に対する回復力が高められており、機能性、耐久性、そして燃料効率の向上につながっています。高度化した新材料を効果的に加工するために、切削工具にもより高い性能が求められます。
穴の内側にねじ山を加工するときは、タッピングという手法が一般的に使われます。このとき、工具は軸方向に動いてドリル穴に入り、連続的に切削を行って穴の内側にねじ山を刻みます。これに対して、スレッドミル加工では、断続的に切削を行ってねじ山を刻みます。オーエスジーは、材質、表面処理、および工具の形状を最適化して機械加工が難しい材料を加工できるように、高性能のタップを豊富に取り揃えていますが、問題のない切削条件を得ることが難しい時があります。タップは1 回転につき1 ピッチ進むという原理のため、難易度が高いのです。
スレッドミルは、フライス加工でねじ山を加工することを目的とした工具です。3 軸同時制御とヘリカル補間機能が付いたNC を搭載しているマシニングセンタで使用します。加工できる径が固定されているタップと比べ、単一のサイズの穴だけでなく、加工可能な径が一定範囲内にある穴に適用することが可能です。スレッドミルの加工可能な径はCNC プログラムによって決められるため、1 本の工具でさまざまなサイズの穴のねじ切りを行うことができます。複合加工用のスレッドミルでは、穴開け、面取り、ねじ切りなど、さまざまな作業を複合的に行うことができます。
タップ加工と比較して、スレッドミル加工は、切りくずの処理や切削油剤の潤滑性の面で切削条件の制約が少なく、より高い安定性を実現できます。スレッドミルは切りくずが細かいため、とても扱いやすいです。さらに、タッピング作業の終了時のように反転させる必要がないため、工具の破損やワークの廃棄を最小限に抑えることができます。この高い信頼を誇るスレッドミルは、その性能から、無人で加工を行うこともでき、めねじ加工の最強の工具であると言えます。
なぜスレッドミルは、もっと頻繁に使用されるようにならないのですか?
スレッドミルは高品位なめねじ加工を行うことができるのですが、第一の選択肢とはなり得ない理由がいくつかあります。
1. 3 軸同時制御のマシニングセンタが必要
2. 加工プログラムが容易ではない
3. 段取りに時間がかかる
4. 加工時間が長い中でも、加工時間が長いことは、スレッドミルが選ばれない一番の理由となっています。
倒れとサイクル時間の相関関係
スレッドミルでは、ねじ山を1 つ切るために複数回のパスが必要で、タッピングよりも加工時間が長くなると一般的に考えられています。また、切削力のバランスが均等でないことから起こる倒れも問題となっています。工具が穴の底に向って進んでいくと、倒れにより精度が悪化します。これを補正するには、パスを余分に1 回行うゼロカットをします。ゼロカットをしても倒れが解消しないときは、さらにパスを加える必要があります。その結果、サイクル時間がより長くなります。
画期的な1パススレッドミル AT-1
倒れと長いサイクル時間の問題を解消するために、オーエスジーはAT-1 を開発しました。この工具の形状に関して特許2 件を日本ですでに取得しており、高品位なめねじ加工を実現する新発想の1パススレッドミルです。

1. 左ねじれ仕様
特許を取得した技術の1 つは、AT-1の左ねじれ仕様です。図1に示すように、従来の右ねじれ仕様のスレッドミルの場合、刃先から加工を開始するため、倒れが極めて生じやすくなっています。これに対し、AT-1 の右切削および左ねじれ仕様では、シャンク部側から加工を開始するため、倒れを最小限に抑えることができます。

2. 不等分割・不等リード溝
特許を取得した技術のもう1 つは、不等分割・不等リード溝の形状で、この形状は一般的にエンドミルに応用されています。不等分割・不等リード溝の形状により、びびりの発生が最小限に抑えられています。1パスでの切削の量は増えていますが、図2 に示すように、高精度で一貫した表面仕上げを実現することができます。
不等分割・不等リード溝の形状をスレッドミルに導入するには、大きな困難が伴います。なぜなら、溝形状の違いにより、工具の山型補正が変わるため、工具製造には特殊な製造技術が必要となるからです。

スレッドミル加工はより成熟した切削プロセスですが、信頼性が高く、表面仕上げや精度も優れているため、従来のタッピングを凌ぐ成果が期待できます。AT-1 は1パスで複数のねじ山を刻むことができることから、ステンレスなど加工が困難な材料にとって究極のソリューションであると言えます。
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