深穴加工の限界に挑む

油穴付き超硬ドリルADO-100Dが金型加工の常識を刷新

現在の金型製造において、フライス加工は工作機械や周辺機器、切削工具の性能向上により形状加工などの加工能率は飛躍的に改善されている。一方で、冷却穴をはじめとする多数の深穴加工は、依然として生産性に課題がある工程であった。近年、欧士机 (上海) 精密工具有限公司(以下、OSG中国)のエンジニアリングチームは、世界的なダイカスト金型メーカとの協業によりSKD61材における穴深さ100×Dの超深穴加工を従来のガンドリルから油穴付き超硬ドリルADO‑100Dを採用することで高能率化を実現した。この加工改善は深穴加工に対する従来の常識を刷新し、ユーザに大幅な加工能率向上をもたらした。

金型業界の背景とユーザの課題

今回、加工改善に取り組んだユーザは、敷地面積約14万平方メートル、従業員数約2,000名を擁する中国北部に拠点を構える大手自動車部品メーカである。同社は2005年に設立され、トランスミッションケースやシリンダーブロックなどを製造するリーディングカンパニーとして知られている。同社の金型工場では、熱処理されたSKD61材を用いた大型ダイカスト金型を製造しており、その金型のホットランナの深穴加工には主にガンドリルが使用されていた。ガンドリルは真直性に優れるが、加工能率が低いため、生産性向上の大きな課題となっていた。

今回の加工ワークは300mm×400mm×400 mmであり、内部に複雑な流路を形成するため、穴径3mm、穴深さ100×Dの深穴加工が必要であった。従来の超硬ドリルは一般的に50xDまでを対象としており、特殊製作でも70xDが限界とされていた。これを超える100xDの超深穴を高能率で加工することは、OSG中国にとって大きな技術的挑戦であった。

常識を覆す100xDソリューション

この課題に対して、庵ノ上豊をプロジェクトマネージャーとするOSG中国のエンジニアリングチームは、超深穴加工用油穴付き超硬ドリルADO-100D φ3を提案した。

オーエスジーの油穴付超硬ドリルADOシリーズは、独自のRギャッシュ形状により切りくずを細かく分断し、優れた切りくず排出性を実現する。さらに低スラスト化によって高能率加工を可能にしている。切りくず排出性と剛性を両立した溝形状を採用することで、深穴加工においても安定した加工を実現する。また、表面処理には高い耐摩耗性・耐熱性に加え、じん性に優れるEgiAsコーティングを採用し、ばらつきのない長寿命を確立している。

OSG中国のプロジェクトチームは、単に工具を提供する従来型のアプローチにとどまらず、革新的な対策を提示した。

小径ロングドリルの安定した深穴加工を実現するためには、突発的な折損を防ぐことが不可欠である。そのためには、加工中のドリルの振れを抑え、切りくずをスムーズに排出させる必要があった。そこでプロジェクトチームは、機械メーカのニデックオーケーケー株式会社、ツーリングメーカのエヌティーツール株式会社と連携し、さらにSiemens Digital Industries Softwareが提供するNXソフトウェアの支援を受け、この課題を確実に解決する「4ステップ加工戦略」を策定した。

この戦略は、穴径3mm 穴深さ300mm(100×D)の超深穴を安定した高能率で加工するために、穴の入り口から段階的に高精度なガイド穴を形成する加工手順が重要なポイントになった。

実施された加工手順

ステップ1:基準位置になる高精度なガイド穴の加工

穴径6.5mm、穴深さ20 mmのガイド穴を加工し、後工程の基準位置を確立する。

ステップ2:負荷軽減のための穴加工

穴径6.5mm、穴深さ140 mmの穴加工を行う。この工程は特に重要であり、後工程のロングドリルのマージン部と穴の壁面との接触を減らし、接触抵抗による加工の不安定化を防ぐ役割がある。

ステップ3:精密ガイドの形成

特殊ガイドドリルφ3を用いて穴径6.5mmの穴底に、穴深さ6 mmのガイド穴を加工する。このガイド穴は、次の工程にてADO-100D φ3の切れ刃が被削材に接触した瞬間から安定性を確保するためであり、極めて高い精度が求められる。

ステップ4100×Dの連続深穴加工

ADO‑100Dに必要な高精度ガイド穴の加工が完了したら、深穴加工を一気に行う。ADOの優れた切りくず排出性と高い剛性により、安定した連続加工が可能となる。

成果と今後の展望

ユーザとの積極的な協業により、製造現場での加工試験から量産段階までの検証を通じて、本ソリューションは極めて高い加工安定性を実現した。従来のガンドリルでの深穴加工と比較すると、ADO‑100Dは安定した切りくず排出性を発揮し、切削速度、送り速度ともに大幅な向上を実現した。また、加工された加工面の品質向上にも繋がった。

本プロジェクトの成功は、ADOシリーズが超深穴領域において高いポテンシャルを持つことを実証するとともに、OSG中国が工作機械、ツーリング、工具、デジタル技術を連携させた「トータルソリューション」を提供できる技術力を示した。今後もOSG中国は「100×Dスピリット」のもと、技術の限界に挑戦し続け、金型加工分野のさらなる生産性向上に貢献していく。

油穴付超硬ロングドリル特注対応、ならびにOSG中国に関する詳細