ADO-TRS 「Triple Revolution」 3 枚刃油穴付き超硬ドリル

鋼材加工における優れた加工能率と安定性

山本剛広 オーエスジー株式会社 ドリル開発エンジニア

3 枚刃の超硬ドリルは、現在、既に世の中で使用されていますが、切りくず処理性が良く、比較的切削抵抗が上がらない(強度の低い)鋳物、ダクタイル鋳鉄、アルミ合金鋳物などの加工で使用される事がほとんどです。中には炭素鋼、合金鋼、軟鋼などの鋼材の加工を推奨しているものもありますが、実際には刃数が多い事により切削抵抗が高くなってしまうのです。

 加工機やワークの形状、クランプ状況などにより安定した加工ができず、使用できる領域が制限されたり、3枚刃の本来の特長である高送り加工や高精度な加工ができない場合が多くあります。またこういった鋼材加工では、被削材の強度が高い上に、粘さもあるため、切りくずの分断、及び安定的な生成が困難であり、切りくずによる工具折損や欠損など突発的なトラブルが絶えない状態です。

オーエスジーでは、こういった従来の3枚刃ドリルの常識を変え、問題となっていた切削抵抗の高さ、特に鋼材加工における不安定さを解決した、新型の3枚刃油穴付き超硬ドリルADO-TRSを開発しました。

ADO-TRS「Triple Revolution」の特長

鋼材の安定した加工を実現したADO-TRS の特長は、大きく3 つあります。一番大きな特徴は、新開発のR ギャッシュです。

図 1 ADO-TRS の独自の R 溝形状が低い切削抵抗を実現し、短く コンパクトな切りくずを安定して生成。

切りくずが排出されにくい工具中心部のチップルームを広げ、中心部における切りくず排出をスムースにし、かつR の形状を最適化して、切りくずの流れる方向をコントロールします。それにより、粘性の高い鋼材においても切りくずのカールをコントロールするため、結果として、切りくずの分断性、及びその形状の安定性が格段に向上しました。また、これによって従来型3 枚刃のもう1 つの課題であった切削抵抗(スラスト抵抗)を、従来工具比で30% 程度も低減する事ができ、これは高送り領域での加工において、刃数の少ない2 枚刃ドリルよりも低い、突出した低抵抗を実現しているのです。

2 つ目の特長としては、上記で生成したコンパクトで形状の安定した切りくずを、よりスムースに排出するための溝形状(広いチップポケット)です。3 枚刃ドリルでは切りくずをドリルの中心から排出することが非常に困難です。ところが、ADO-TRSはこの溝形状を採用したことにより、切りくず排出性の改善を実現しました。この溝形状はR ギャッシュとの組み合わせで、切りくずをよりカールさせ分断しやすくする効果も持ち合わせています。

最後に上述の2 つに劣らず重要である特長が、弊社ADOドリルシリーズに採用している、新開発のEgiAs(イージアス)コーティングを採用している事です。EgiAs コーティングでは、耐摩耗層とナノ周期積層を多層で組み合わせる構造により、ドリル加工時に発生しやすいクラックの伝播を抑制します。また硬層と軟層を組み合わせる事により、内部応力が緩和される事から耐摩耗性と靱性の両立を実現しました。

加工データ

1. 鋼材における切りくず分断性と安定性

ADO-TRS の最も注目すべき2 つの利点は、鋼加工における優れた切りくず管理とスラスト抵抗の低さです。

鋼材の中でも粘度が高い合金鋼SCM440(生)をMQL 加工した時の切りくず形状を図2 に、また従来型3 枚刃ドリルで加工した後のドリルの状態を図3 に示します。さらに図4 には、より切りくず分断が難しく、切りくずによる突発折損、突発欠損、切りくず巻き付きなどのトラブルが起きやすい軟鋼SS400 を水溶性切削油剤で加工した時の切りくず形状と耐久性能を示します。

図2、図4 に示したように、粘度の高い合金鋼、軟鋼の加工において、従来型ドリルでは切りくず形状が長く、不安定であるのに対して、ADO-TRS では非常に細かく分断できています。注目頂きたいのは、その切りくず形状が圧倒的に安定している事です。こういった切りくずの安定性が、鋼材での安定加工を実現する要因の1 つであり、図5 にも示したように、特に切りくずトラブルの多い軟鋼SS400 の加工においても、非常に安定した長寿命加工を実現しています。

2. 低抵抗の切削

次に、図6 に示すのは図2 に示した切削条件による加工時の切削抵抗の比較です。

図6 に示したように、従来型3 枚刃ドリルに対して約35%スラスト抵抗を低減できており、かつ一般的に使用されている刃数の少ない2 枚刃超硬ドリルと比較しても、同一条件下ではADO-TRS が低いスラスト抵抗を実現しているのです。

従来型3 枚刃ドリルにおいては、切削抵抗の高さが原因で、加工機やワークの形状、ワーククランプ状況などにより、本来の特徴である高送り加工や高精度加工ができない、加工環境を選ぶという問題や制約が多くありました。一方、ADO-TRS は従来型に比べ、そういった制約を受けにくく、幅広い環境下で使用できる高い汎用性を有するという事を意味します。

次に、前述した特長と新開発のEgiAs コーティングの効果により、鋼材の長寿命、安定加工を実現した事例を図7で紹介します。ワークは自動車エンジン部品であるクランクシャフトです。形状的に、加工する際のワーク保持力(クランプ)は高くないですが、そういった状態においてもADO-TRS の低抵抗の効果によって、従来使用されていた2枚刃よりも加工の送り量を大幅に上げる事ができました。それにより、加工時間を大幅に短縮することができた事例です。

このように、ADO-TRS では従来工具では加工が不安定であった鋼材に対しても、非常に安定した、高送り、長寿命加工が実現できます。上述した3 つの特長の組み合わせにより、新型3 枚刃油穴付き超硬ドリルADO-TRS では、従来型3 枚刃ドリルでは安定した加工ができなかった鋼材加工を含め、幅広い被削材の加工において、安定した長寿命を実現することができました。

この新型R ギャッシュは、オーエスジーの油穴付き超硬ロングドリル、ADO-40D/50D にも採用されています。極めて低い切削抵抗と非常に優れたチップコントロールを持つ仕様は、超深穴加工用途において卓越した性能を発揮できるように最適化されています。さらに、この形状の切りくず分断性と切りくず形状安定性、そして切削抵抗低減といった効果は、3 枚刃ドリルのみならず2 枚刃ドリルにおいても非常に有効であることが分かっています。今後、この仕様をその他の製品にも展開し、更なる高能率、長寿命、安定加工、高精度加工といった要望に応えられるよう、Aドリルシリーズを進化させていきます。

鋼加工における切りくず排出の問題で特に苦戦されている皆様は、ぜひADO-TRS を採用し、その優れた加工能率と安定性を体感して下さい。

ADO-TRS はドリル径φ3 ~φ20、加工穴深さ3D 用、5D 用のラインナップをそろえており、炭素鋼、合金鋼、軟鋼、鋳鉄、焼入れ鋼などの用途に適しています。

ADO-TRSの詳しい情報