ステンレス鋼とチタン合金への信頼性を再認識
高井一輝、オーエスジー株式会社 製品開発技術者
ステンレス鋼は、耐久性・耐食性のある材料として、幅広い用途、産業で使用されています。ステンレス鋼は耐摩耗性に優れているため、加工が難しい材料です。オーエスジーは、このような材料の加工性を高めるオイルホール付き超硬ドリルシリーズWDO-SUS を新たに開発しました。本シリーズで、製造工場の能力や稼働力を最大化できます。ステンレス鋼と比べて性質に似ている点が多いチタン合金も、新たなWDO-SUS で効率良く加工できます。
図1. WDO-SUSドリルの特長

なぜステンレス鋼は加工が難しいのでしょうか。
一般的にステンレス鋼の加工には、加工硬化、低熱伝導率、溶着、切りくずの伸びという4 つの問題があります。この問題を解決するため、特殊な性能を持つWDO-SUS を開発しました(図1 参照)。
加工硬化
加工硬化は、塑性変形により金属が硬化する現象です。材料の結晶構造内で転位が発生することで、このような硬化が起こります。ステンレス鋼やチタン合金など、高融点の非脆性金属は、この状態になりやすい傾向があります。塑性変形を減らすには、被削材に加わる切削抵抗を最小限に抑えることが重要です。そのためには、刃先を鋭利に保つことが最も重要です。オーエスジーのWDO-SUS はこの点を考慮して、面取り幅を最小として切削抵抗を抑制した鋭利な刃先を採用しました。
低熱伝導率
低熱伝導率の材料は、加工時に発生する熱を放散することが困難です。全体的に切削熱の温度が上昇すると、工具の素材やコーティングが酸化し、工具が速く摩耗します。発熱を抑えるため、WDO-SUSは刃先を鋭利にし、マージン領域を最小に抑えています。さらに、WDO-SUSは加工熱を迅速に放散できるように、新型オイルホール形状を採用し、従来のオイルホール形状と比べて切削油剤の流速を3 倍にしました。新設計のオイルホールにより、従来品と比べて総流量が1.3 倍増加し、切りくずを大幅に排出しやすくなりました。
溶着
ステンレス鋼は、超硬材料と親和性が高いため、非常に溶着しやすく、切削工具を傷めるおそれがあります。こうした状態を引き起こさないように、WDO-SUSドリルには、工具素材への接着強度が高く摩擦係数の低いWXL コーティング(オーエスジーが特許を取得)が施されています。
切りくずの伸び
ステンレス鋼独特の性質は、引っ張り強度が高いことです。そのため、ステンレス鋼の加工中に発生した切りくずは非常に伸びやすく、排出中に詰まりを引き起こします。穴加工中に、ワーク内での実際の加工状態を分析することは極めて困難です。オーエスジーは、製品や製造過程のシミュレーション、検証、最適化に広く使用されるコンピュータ支援エンジニアリング(CAE)技術を利用することで、この課題を克服しました。CAE でワーク内の状況を正確に調査することで、ステンレス鋼から発生する切りくずを小さくする最適な工具形状を考案しました(図2 参照)。
図2. チップ形状の比較
従来の超硬ドリル オーエスジー WDO-SUSドリル
従来の超鋼ドリルで発生する切りくず WDO-SUSで発生する切りくず
切削データ
図3 は、SUS304 加工時の、オーエスジーのWDO-SUS ドリルと従来品との工具寿命の違いを示しています。WDO-SUSドリルの耐久性は、他社のドリルの2 倍でした。図4 は、マージン摩耗の比較です。WDO-SUS は、加工中にほとんど発熱しないため、他社の工具と比べるとマージン摩耗が非常に少なくなっています。
図3. ステンレス鋼の切削データ

図4. SUS 304 加工後のマージン摩耗の比較
1,500 個の穴を加工した後の他社のドリルのマージン摩耗。 2,500 個の穴を加工した後のWDO-SUS のマージン摩耗。
さらに、ステンレス鋼だけでなく、図5 に示すように、チタン合金の場合もWDO-SUSが他社を上回っています。WDO-SUS を使用すると、チタン合金に2,000 個以上の穴を加工することができましたが、他社の工具は初期段階で欠けて使えなくなりました。
図5. チタン合金の切削データ

結論
オーエスジーの新たなWDO-SUS シリーズは、切れ味を高めて加工硬化を抑えた工具形状を採用しているため、次工程で使用するリーマやタップなどの工具寿命を延ばします。切りくずを速やかに排出するには、切りくずを小さくすることが欠かせませんが、この新型溝形状によってそれが可能になります。さらにWDO-SUS は、直径が6 mm を越えるものに、発熱を抑えながら切りくずを速やかに除去できる独自のオイルホール形状を採用しています。その上、オーエスジーが特許を取得した、接着強度の高いWXLコーティングを施したことで、非常に溶着しにくくなっています。オーエスジーの最新の切削工具技術を詰め込んだWDO-SUSシリーズ、ステンレス鋼やチタン合金の穴加工をする際、工具寿命を安定させ、難削材を効率良く加工することができます。
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