ADO-40D・50D油穴付き超硬ロングドリル

深穴・超高能率加工は50Dの世界へ

山本剛広 オーエスジー株式会社 ドリル開発エンジニア

深穴の加工と言えば昔からガンドリルやハイスロングドリルが使用されていますが、近年では30D以下の深穴加工においては、超硬ツイストドリルによる高能率加工が普及しています。

しかしながら、30Dを超えるような深穴加工においては、超硬ツイストドリルでの高能率・安定加工が難しく、未だガンドリルなどでの加工が一般的です。

オーエスジーでは、こういった30Dを超える深穴加工においても、30D以下の深穴加工同様、高能率で安定した加工を可能にした油穴付き超硬ロングドリルADO-40D・50Dを開発しました。

ADO-40D50Dの特長

30Dを超える深穴の高能率・安定加工を実現したADO-40D・50D の一番の大きな特長は、新開発のR ギャッシュ(PAT.P in Japan)です。(図1)

図 1  新開発のRギャッシュ

このR ギャッシュ形状により、従来比30%程度の切削抵抗低減と、圧倒的な切りくず形状の安定性を実現しています。

従来型の超硬ツイストドリルも細かく分断された切りくずを生成できますが、特に炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼といった鋼材の加工においては、尻尾の長い切りくずやつながった切りくずなど、形状の不安定なものが混在します。これらの切りくずが深穴加工においては切りくず排出を阻害し、突発的な工具破損につながります。 新開発のRギャッシュでは、切りくずが排出されにくい工具中心部のチップポケットを広げ中心部における切りくず排出をスムーズにし、かつギャッシュのR の形状を最適化して切りくずの流れる方向をコントロールします。それにより、切りくずの分断性が従来のものよりも優れ、かつ切りくず形状の安定性が格段に向上しました。また、Rギャッシュにより切削抵抗(スラスト抵抗)を、従来工具比で30% 程度も低減することができ、加工振動抑制や直進性の向上を実現しています。

2つ目の特長としては、切りくずをよりスムーズに排出し、かつ突出しの長いボディの剛性を確保する溝仕様です。チップポケットとして機能する溝幅を広くすることで切りくずの排出性を向上し、さらにねじれ角を25°とすることにより、切りくず排出性を損なわずに、工具の剛性を確保しています。

さらに3つ目の特長は、当社ADOドリルシリーズに採用している、新開発のEgiAs(イージアス)コーティングです。EgiAs コーティングは、耐摩耗層とナノ周期積層を多層で組み合わせる構造により、ドリル加工時に発生しやすいクラックの伝播を抑制します。また硬層と軟層を組み合わせることにより、内部応力が緩和されることから耐摩耗性とじん性の両立を実現しました。

ADO-40D・50Dの最大の利点は以上の特長により、30Dを超える深穴加工の高能率・長寿命・安定加工を実現していることです。

加工データ

1. 切りくず分断能力とその安定性

鋼材の中でも粘性が高い合金鋼SCM420Hを加工した時の切りくず形状を図2に示します。

 図2. SCM420H加工時の切りくず形状

図2に示したように、他社超硬ツイストドリルでは切りくずが分断しきれず、つながった切りくずが発生しているのに対して、ADO-50Dでは非常に細かく、かつ1つ1つの切りくず形状が同じで、安定していることが分かります。こういった切りくずの安定性が、深穴での安定加工を実現する重要な要因の1 つであり、後述します図6ように、非常に安定した長寿命加工を実現しています。

2. 低抵抗の切削

次に、図3 に加工時の切削抵抗について、他社品と比較した事例を示します。

図3.SCM440加工時の切削抵抗

図3 に示したように、他社品に対して約30%スラスト抵抗を低減できており、かつ切りくず排出がスムーズで安定しているため、波形が非常に安定しています。

3. 工具剛性の確保と切りくず排出を両立し安定加工を実現

深さ40D用、50D用といった30D用を超える長さの工具では突出しと溝長が長くなり、工具剛性が低下します。工具剛性を確保するためには芯厚を厚くすること、ねじれ角を弱くすることなどの方法が考えられます。反面、加工深さが深く、発生した切りくずを排出する経路も長くなるため、工具剛性を重視しすぎると切りくずをスムーズに排出できなくなります。そこでADO-40D・50Dでは、一般的な油穴付き超硬ドリルがねじれ角30°であるのに対して、25°というねじれ角を採用しました。これにより、切りくずの排出性を損なわずに、工具剛性を確保しています。

図4.ねじれ角と加工状態

図4に示したように、従来のねじれ角30°では加工中に工具剛性不足による振動が見られます。ねじれ角20°では切りくずを排出できず、加工途中で折損しています。これらに対して、ねじれ角25°では非常に安定した加工、切りくず排出を実現しています。

最後に、前述した特長と新開発のEgiAs コーティングの効果により、従来から深穴加工で広く使用されるガンドリル、及び他社品に対して、長寿命、安定加工を実現した事例を図5、図6で紹介します。

図5.ガンドリル、及び従来型(他社)超硬ロングドリル 比較事例

図5ではADO-50Dを使用して深穴加工の工程数削減、高能率化、長寿命化を実現した事例を紹介します。

この加工では従来、パイロット穴加工→超硬ツイストドリル加工(27Dまで)→ガンドリル加工(50Dまで)の3本の工具で穴を加工していますが、パイロット穴加工→超硬ツイストドリル(50D)と2本の工具で加工した事例です。従来型の他社超硬ドリルでは加工が不安定で寿命も短く、2工程化が不可能でした。しかし、ADO-50Dを使用することにより、圧倒的な加工時間短縮、長寿命化を達成しています。パイロット穴加工以降の長い距離を1本の工具で加工しているにも関わらず、従来の3工程で加工していた時の第2工程、第3工程、それぞれの工具に対して、工具寿命では約1.3倍以上の穴数、2.5倍以上の切削長を実現しました。また、加工能率では加工スピード3倍以上で安定した加工を実現しています。

図6.他社品比較事例

次に、図6では他社の従来型超硬ツイストドリルに対して、ADO-50Dを使用して高能率化、長寿命化を実現した事例を紹介します。

他社超硬ドリルにおいては、切りくず形状、切りくず排出が不安定で突発的な折損が多く、図6で示すように、100穴以下で折損することが多くありました。それに対してADO-50Dを使用することで、従来ドリルと同じ加工条件、及び1.8倍の加工能率で加工し、いずれも3倍以上の安定した長寿命を実現しています。

このように、従来工具では加工時間がかかる、突発的な折損が多く寿命が短い、不安定といった問題が多かった深穴加工が、ADO-40D・50Dにより非常に安定した高能率、長寿命加工を実現することができました。

当社では、一番大きな特長である新開発のR ギャッシュをその他の製品にも展開し、更なる高能率、高精度、長寿命、安定加工といった要望に応えられるよう、Aドリルシリーズを進化させるとともに、さらに深い穴の安定加工を目指し、製品開発を続けていきます。

ADO-40D・50D のラインナップは、40Dではドリル径φ3 ~φ10、50Dではドリル径φ3~φ8の正寸サイズで、また下記、製作対応範囲表にもあります特殊サイズにも対応しています。

ADO-40D・50D の詳細情報はこちら