タップホルダ SynchroMaster

ねじ立ての性能を向上させるために開発された次世代のタップホルダ

中嶋 孝之 オーエスジー株式会社 タップ開発エンジニア

タップ加工は、ドリルやエンドミルなど他の回転工具と比較してトラブルが多い上、有効な解決手段が少ないことに、悩みを持つユーザーが多くいます。

例えば下記の場合、どんな対策を行っているでしょうか?

• 突発的な折損を防止したい

• タップ寿命を安定させたい

• ねじ品位を向上させたい

• 難しいショートチャンファでも安定加工したい

どれも対策が難しく、生産性を犠牲にして切削速度を低くすることが一般的です。そこで、同期送り機構付きの機械を使用してタップ加工を行う皆さんに、タップの性能を最大限に引き出すことのできるタップホルダSynchroMaster を紹介します。この次世代のタップホルダは、ねじ加工時に工具に生じる負荷を軽減させることで、タップの性能を向上させます。

なぜタップ加工は難しいのか?

要因の一つは、1 回転当たりの送りが固定される点です。タップによるめねじ加工は、食付き部の、らせん状に並んだ切れ刃によって行われます。完全ねじ部は、原則として切削は行わず、すでに完成されたねじ山とかみ合ってタップ自身を案内する役目、いわゆる自進作用をしているに過ぎません。食付き部の各切れ刃は、タップの回転につれて分担して切削を行い、食付き部全体で完全なねじ山を形成します。

図1では、4溝、食付き部の長さ5 山のタップを例にとり、各刃溝ごとの役割を分割して説明します。軸方向の送りが、タップ1 回転に対し1 ピッチ正確に送られれば、加工されためねじは正常な山形になります。しかし、同期ずれ(回転に対して送りが速すぎたり遅すぎたりする)を生じると、図2のようにめねじの山やせが発生し、拡大現象(ねじ精度不良)が起こるのです。

同期ずれを防止する為、加工機、タップホルダ、工具には最適な組み合わせが存在します。(図3) 

従来、タップホルダは、同期送り機構の無い加工機に対して軸方向に可動するフローティング式(可動量5 ~ 7mm程度)を用い、同期送り機構付きの加工機に対して、固定式(可動量0)を用いるのが最適と考えられてきました。

製造現場では、高精度な同期送り機構付きマシニングセンタの普及、一般化によりタップの耐久性は向上しています。しかし、加工機、固定式ホルダの剛性が高くなることで、工具に生じる想定外の負荷を吸収する部分(遊び)が乏しくなる傾向にもあります。これに伴いタップの相対的な耐久は向上しているものの、突発的なトラブルが報告されるようになりました。特に穴の中で正転・逆転を行う“止り穴加工”に対するトラブルが多いと言えます。

SynchroMaster の特性とメリット

SynchroMaster は、タップホルダが微小にフロートすることで工具に生じる負荷を軽減させる機構(ダンパ)を有しています。図4 に示すように、タップ食付き時や逆転開始時に発生するスラスト方向の負荷を独自の一体構造ダンパが吸収します。加工負荷の吸収特性は、A-TAP に対して最適なチューニングをしており、相性抜群です。工具とホルダの最適な組み合わせが、タップの性能を引き出し、より安定した加工を実現します。

加工データ

食付き部が短いタップを使用すると「折損を生じやすい」または「耐久が悪い」と感じることはないでしょうか。食付き部が短いタップは、1 刃当たりの切込みが大きくなり、加工が不安定になりやすくなります。図5 は、切削タップA-SFT M4X0.7 食付き1山を用いてS45C を加工した事例です。固定式ホルダでは、200 穴前後で耐久となりますが、SyncroMaster を使用した場合、加工負荷の吸収機構により、スラスト方向の負荷を軽減することで工具損傷が抑制され、タップの耐久性が向上しました。

また、SyncroMasterは切削タップのみならず転造タップに対しても有効です。転造タップS-XPF を用いてSCM440を加工した事例を図6 に示します。固定式ホルダでは400穴程度で工具損傷が大きくなり、耐久と判断されていたものが、1000 穴程度加工できるようになりました。転造タップは切削を行わず、被削材の塑性変形を利用してめねじ加工する為、加工負荷が切削タップよりも大きくなります。加工負荷の一部をSyncroMaster が吸収する効果は、転造タップに対しても有効です。

特に不安定な工具寿命、ねじ品位の低下、低い生産性、それにタッピング穴の深さの変動といった課題に悪戦苦闘しているメーカは、SynchroMaster タップホルダを採用してタッピング性能の向上を図ることをお勧めします。

SynchroMasterの詳しい情報