そのためのロボットがここにより良く、より安全で、機動力のある製造のためのインテリジェント産業ロボット
今泉悦史 オーエスジー株式会社 加工技術グループリーダ
製造で使用する産業ロボット技術と言えば、まず自動化や輸送システムが思い浮かびます。産業ロボットは自動化され、プログラム可能であり、非常に高性能です。技術の急速な進歩に伴い、現在では産業ロボットは輸送、採取、配置に使用されるだけでなく、溶接、塗装、組み立て、梱包、パレットへの積載、ラベル付け、検査などにも使用されます。
製造部門で使用する産業ロボットは、作業の効率、安全性、品質を高めるように設計されます。産業ロボットは2 軸以上の動きが可能なため、人間と比べると、動きの範囲と機能の面で柔軟性があります。加えて産業ロボットは、大きなコンピュータ数値制御(CNC)システムと比べて休止時間が短く、安全上の懸念が少なく、占有床面積が小さくなります。さらにロボットシステムは、繰り返される個別の要求を満たすようにプログラムまたは再プログラムすることで、製造において柔軟で信頼性の高いソリューションを提供することができます。

インダストリー4.0 そして自動化の進化
近年、製造部門は、サイバーフィジカルシステム、モノのインターネット(IoT)、クラウドコンピューティングが推し進めるインダストリー4.0 という新時代に入りました。インダストリー4.0 では自動化をさらに進めて、組み立てラインの作業員の代わりとなるだけでなく、大量のデータ、問題解決能力、その他の高度に最適化されたインテリジェントサポートと連携することもできます。産業ロボット技術は自動化の進化を後押しする推進力の一つであり、製造のコンピュータ化を促進します。ビッグデータの統合と遠隔監視により製造工程を効率的に評価して、作業品質の向上とコスト削減を実現します。
金属切削 ロボット
インダストリー4.0 の中心では、ロボットシステムからさらに進んだものが期待され、最近では切削という新たな分野が注目されています。現在の産業ロボットの多くが材料切削用途において多種多様な切削を行います。切削の一例として、研削、仕上げ、研磨、バリ取り、ウォータージェット切断、レーザー切断やプラズマ切断、超音波切断、トリミング加工、ルーター加工などが挙げられます。
どのように動作するか 多軸ロボット
多軸ロボットはフライス加工や穴加工などの加工工程で使用されます。どのような形態で自動化するかによらず、加工領域に沿ってロボットを動かすにはプログラミングが必要です。まず、ロボットの先端に、高速ルータースピンドルと共に切削工具を取り付けます。取り付けを終えたロボットは、部品や工具を迅速かつ簡単に交換することができるため、1 時間あたりにCNC システムよりも多くの高品質な部品を製造することができます。

しかし、材料切削ロボットには制約があります。金属切削用途では、剛性、材料の硬度、精度が重要です。多軸ロボットは関節をいくつも連結した構成をとるので、厳しい加工精度を達成することができるほどの剛性をもたないことがほとんどです。剛性がなければ、ロボットが部品に加える力の大きさは制限されるので、材料切削ロボットは最近まで、プラスチックなどの軟質材料しか加工することができませんでした。
金属切削ロボットの使用例 航空宇宙産業において
過去10 年間、材料切削ロボット技術は深く追求されてきました。産業ロボット製造業者の多くが、炭素繊維強化ポリマー(CFRP)などの材料を高精度に加工するため、十分な力を加えることができる頑丈なシリアルリンクロボットの開発に成功しました。

かつて民間航空機用途では、鋳造特性が良いことからアルミニウム合金やステンレス鋼を広く利用していました。しかし、CFRP はアルミニウム合金と違って酸化しません。アルミニウム合金の代わりにCFRP を使用すると、部品の耐久性が高まり、航空機の燃料消費量が大幅に低下します。CFRP は繊維の混合物で形成され、耐食性があり、堅くて強い材料です。また、
CFRP は多層材としての特性をもつため、一般には加工が非常に困難です。さまざまな種類(例えば、交差、一方向など)のCFRP が市販され、許容範囲が違う、剥離問題に対する要求が異なるなど共通性がほとんどありません。CFRP の製造には高い柔軟性が必要ですが、最新の産業ロボットであればこうした要求を満たせます。そのため、広胴の民間旅客機の製造工程を自動化するため、金属切削ロボットを使用することが増えています。
航空機の製造では、さまざまな部位や部品を接続するため、切削工具で多くの部品を加工する必要があります。製造工程を自動化するため、床梁とフレームを組み立てた後、航空機胴体内にレールを敷設します。その後、レール上に産業ロボットを配置して往復移動させながら、動きの範囲が極めて広いことを利用して横や天井の胴体パネルを取り扱います。効率を最大化させるため、多くの場合、異なる作業をする2 台のロボットを組み合わせて動かします。産業ロボットは剛性、精度、柔軟性が高いため、航空宇宙メーカが費用効率良く製造を自動化するための選択肢の1 つとなりました。
コラボレーション マシンメーカと切削工具メーカ
ファナック社は世界最大の産業ロボット製造業者の一つであり、複合材を加工する金属切削ロボットによりソリューションを提供する数少ない企業です。ファナック社は、CNC システム、産業ロボット、小型マシニングセンタといったFA 製品の製造や営業を事業の中核としています。同社は、民間企業として日本で初めてNCとサーボ機構の開発に成功しました。開発に成功した1956 年以降、変わらず工場の自動化を追求しており、産業ロボット分野では、機械部品の載荷や除荷、溶着、パレットへの積載、塗装、組み立て、バリ取りなどの幅広い作業に対応した包括的なラインナップを提供しています。ファナック社の産業ロボットは、診断、解決、生産性向上のための継続学習が可能な高機能ソフトウェアを搭載しています。同社の製品は、信頼性が高く使いやすいことで有名です。現在、ファナック社は世界45 か国、257 か所に拠点を置き、世界中の工場に休止時間を最小化するためのソリューションを提供しています。今年、ファナック社は、最新のIoT 技術とAI 技術を利用して工場の無人化をさらに推進する、FIELD(Fanuc Intelligent Edge Link &Drive)システムを販売すると発表しました。

JIMTOF 2016 日本国際工作機械見本市では、ファナック社とオーエスジーが協力して、最新の金属切削ロボット技術を紹介しました。ロボットと切削工具を取り付けるスピンドルを固定するため、株式会社ナカニシという製造業者の協力を受けました。複合材を切削する工具として、オーエスジーのD-DAD ダイヤコートダブルアングルドリルを使用しました。この組合せにより切削抵抗が小さくなり、オーエスジーの標準的な切削工具を使用しても、ファナック社のロボットで、CFRP に優れた品質の穴を開けることができるという切削結果を実証することができました。

見本市では、多くの来場者がこの組み合わせに興味を示しました。多くの製造業者が立ち寄り、技術的な質問をしていました。金属切削ロボットにはこのような利点があるにもかかわらず、日本ではさまざまな制約により活用が遅れています。一般的に、新技術を導入することは簡単ではなく、特に、中小企業では困難です。最初に機器の費用がかかることに加え、作業工程を変更する必要もあります。以前の作業から新しい手順への知見の移し替えも必要なため、経営的な視点では投資リスクに見える可能性もあります。中小企業が技術を切り替えるには、長期的に見れば節約になるという点で、そのコストを明確にすることが必要です。
金属切削ロボットの将来
インダストリー4.0 をさらに加速度的に進めるには、奨励金などの刺激策といった政府の関与が必要です。産業ロボット技術の視点でさらに進化することも必要です。アルミニウムや鋼はコストが低く、引張強度が高いという性質があるため、製造で広く使用される材料です。しかし現在、アルミニウムや鋼を安定して問題なく加工することができる産業ロボットは存在しません。鋼にはじん性があるので、精度を保ちながら必要な力を加えるには、剛性が高くなるように材料切削ロボットを設計する必要があります。クランプの応答性と強度を高めるなど、クランプ技術を改良することで、ロボットの直列接続構造の問題点を解決することができます。さらに、ソフトウェアを改良することで、剛性と精度をこれまで以上に高めることもできます。産業ロボットが高い分析能力で工程を評価することができるようになれば、被削材に近づけて切削距離を縮めることにより剛性を高めるなど、切削中に必要な調節を行うことができます。
切削工具の役割
業ロボットとプログラムの設計に加えて、金属切削ロボットに使用する切削工具も進化を続けなければなりません。直列接続ロボットは、高精度な切削に必要な剛性が不足しがちなため、切削工具を鋭利にして切削抵抗を最小化しなければなりません。高精度金属切削ロボットでは、切削工具が重要な役割を果たします。切削抵抗を小さくするには、刃先を鋭利にすることが必要です。ただし、鋭利にし過ぎると刃先が欠けやすくなります。オーエスジーの技術チームは、金属切削ロボットに最適な鋭利さと耐久性のバランスを実現する、新しい工具形状の研究と試験を続けています。難削材の加工では、工具形状に加えて、切削工具のコーティングも決定要因となります。ナノコーティングなどのコーティング技術を使用すれば、工具に薄い保護部材を形成しやすくなり、厚くならないことで鋭利さを損なわずに欠けを防ぐことができます。

造業者は適切に工具を管理すれば、高度なロボットシステムにおいて加工工程を管理しやすくなり、最適化を図ることができるため、高価で大きな専用の多軸CNC 機械の必要性が減ります。インテリジェントな大量生産は遠くない未来に実現します。技術がさらに成熟すれば、金属切削用に設計したロボットシステムにより、ますます複雑になる作業を行う作業員を、柔軟性のあるソリューションでさらに適切にサポートすることが可能となり、製造現場に変革をもたらします。
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