リードタイムの短縮、費用効率の改善

ステンレス鋼に20,000 個以上の穴を開ける

Dieter Prinz  |  OSG Germany

機械や加工にあまり負担がかからないのは良いことですが、弊社にとってはさほど重要ではありません。弊社のロットサイズでは、切削速度を最大化する必要はあまりないのです。工具の交換や折損が減れば、機械のリードタイムが格段に少なくなるので、信頼性が高いことのほうが重要です。新しい工具に替えれば、切削抵抗や切削温度、さらに送り速度の低減を達成できるという理想論は聞こえは良いです。しかし、一般的には、理想を実現できるかどうかは切削データだけではなく、実際の加工環境を取り巻くさまざまな要素にも影響されます。そういった理由から、ドイツのザラッハに構えるハインツ・ステンレス社の製造チームは、実験室の条件で達成した数値をあまり参考にしません。ハインツ・ステンレス社が注目しているのは、ステンレス鋼などの難削材に対する加工の信頼性です。

ハインツ・ステンレスGmbH は1990年に設立され、特注のステンレス鋼部品を小ロットで供給する企業としての地位を築いてきました。ザラッハでは、一年間に最大1,200 トンのステンレス鋼を加工しており、そのうち95パーセントはフライス加工、旋削、研削、穴加工をします。同社は、3つのカッターを使用したプラズマ切断も行っています。最新のCAMソフトウェアを使用した効果的な切削条件を組み合わせることで、無駄を極めて少なくします。現在、配管製造業や石油化学部門だけでなく、医療業界、食品産業、建築・建設業のお客様もいらっしゃいます。

オーエスジーがハインツ・ステンレス社の生産施設を訪れたとき、同社が特段、難しい加工に悩んでいたわけではありませんでした。しかし、同社は、常に稼働環境の改善を進めており、新たな提案を歓迎しています。この報告に関連して、抄紙機メーカー向けのふるい部品への穴加工について、新たな提案をしました。この用途では、ステンレス鋼1.4462に、直径12 mm、深さ20 mm の貫通孔を10,000 個以上開ける必要があります。

このステンレス鋼X2CrNiMoN22-5-3は加工が難しく、この鋼の加工はマスタークラスに属します。この極低温用ステンレス鋼は、耐候性が高いため、主に建築に使用され、石油化学産業に使用されることもあります。このふるい部品を一つ穴加工する場合、3 日で2.5 本というのが一般的でした。それまでは、最上級の超硬ドリルを使用することで、優れた切削状態を実現していました。今では切削パラメータが3.5上昇し、工具寿命が2 倍以上になりました。これは、ステンレス鋼のような強靱な材料向けに特別に設計したオーエスジーのWDO-SUS 超硬ドリルにより可能となりました。WDO-SUS シリーズは、切れ味を高めて加工硬化を抑えた工具形状を採用しているため、次工程で使用するリーマやタップなどの工具寿命を延ばします。切りくずを速やかに排出するには、切りくずを小さくすることが欠かせませんが、この新型溝形状によってそれが可能になります。さらに、WDO-SUS は、直径が6 mm を越えるものに、発熱を抑えて切りくずを除去しやすくする独自のオイルホール形状を採用しています。オーエスジーが特許を取得した、接着強度の高いWXL コーティングを施したことで、非常に溶着しにくくなっています。WDO-SUS に替えることで、切削温度だけでなく、切削抵抗と摩擦も低減します。さらに、新型面取り形状を採用しているため、必要な送り量が小さくなります。WDO-SUSの性能は、ハインツ・ステンレスGmbH の技術営業部門の責任者、ピーター・ハインツ氏の期待をはるかに越えるものでした。

「弊社は25年にわたって、ステンレス鋼の加工と試験を数多く行ってきました。今までの経験上、工具の性能を最大化するためには、温度管理された理想的な環境下で最新の機械を使用することが必要でした」とハインツ氏は語ります。

「弊社の機械は最新モデルではなく、ラジアル偏差は最適ではありません。だからこそ、WDO-SUS に驚いたのです。信頼性が極めて高く、切りくずを非常に速やかに排出でき、工具寿命も満足いくものです。」

オーエスジーは、サイクル時間と工具寿命に合わせて試験を用意しました。まず、サイクル時間を短縮するため切削パラメータを最大値に設定しました。それにより、サイクル時間が3 日から1.5 日に短縮されました。次のステップは、無監視状態での製造です。1 つのドリルで2 つのふるい部材を加工できる工具寿命を実現し、さらにその後でも、交換が必要とはならず、問題なく使用できました。この 結果を受けて十分信頼できるものと判断し、一晩中、無監視状態で製造することを検討し始めました。これは、オーエスジーのWDO-SUSによる最適化、つまり機械の負荷を軽減し、電力消費を抑えられることを意味しています。しかし、ザラッハではそこには注目していません。大量生産するわけではなく、永続的な負荷もないからです。むしろ、加工時の信頼性のほうがはるかに重要です。ピーター・ハインツ氏にとって、高速化や工具の長寿命化は付随的な利点にすぎません。

「機械や加工にあまり負担がかからないのは良いことですが、弊社にとってはさほど重要ではありません。弊社のロットサイズでは、切削速度を最大化する必要はあまりないのです。工具の交換や破損が減れば、機械のリードタイムが格段に少なくなるので、信頼性が高いことのほうが重要です。」

製造部門責任者ゼリコ・コズマン氏(左)、技術営業部門ピーター・ハインツ氏(右):「このドリルは、一晩中、無監視状態で使用するのに十分と思える信頼性を証明できました。」

中小企業では、費用効率自体を非常に気にします。オーエスジーのWDO-SUS は、超硬素材や工具鋼に対しても高い強度があり、工具を備蓄する必要がなくなります。低価格の製品を使用する場合、重要な部分を損傷する危険性を抱えながら、複数の工具を備蓄しておく必要があります。その点、ハインツ・ステンレス社の方向性は正しいと言えるでしょう。ザラッハでは、1.4462に加えて、他のさまざまなステンレス鋼も加工していますが、ピーター・ハインツ氏の話では、マスタークラスの1.4462 に比べれば加工はたいして難しくないそうです。